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事業承継法定相続の事例:社長/山田太郎の場合

2018.06.05

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==========★現役司法書士が特別レクチャー!★==========

後継者確保難時代の経営者へ「相続・事業承継“必須知識”シリーズ」
 【VOL.1】決めていますか?事業承継の「継がせる形」
 【VOL.2】事業承継法定相続の事例:社長/山田太郎の場合
 【VOL.3】事業承継民事信託の事例:続・社長/山田太郎の場合


多くの経営者の悩みの種となっている事業承継。

前号では司法書士の観点から

  • 「継がせる形」をあらかじめ決めること
  • その形に見合った準備・経営を進めていくこと

この重要性を説き、自社株や相続・贈与税問題を取り上げました。
 
今号では、その継がせる形として「親族への承継」を選んだ社長/山田太郎の事例を用いて、これからの私達が留意すべき点をお伝えします。

目次

社長「山田太郎」の現状・背景

山田社長の家系図は以下の通りです。

yamada-kakeizu-1

また、親族は以下のような想いをそれぞれ抱えていました。

 花子……太郎の経営(やり方)を後継者にも継いでほしい

 浩一……太郎の会社を手伝っている
 桃子……姑(花子)との仲がよくない

 浩二……太郎の会社とは全く関係ない企業に勤務

また、山田太郎の財産の財産状況は以下です。

 【山田太郎の財産】総額2億2,000万円
   
  ・自社株式  100株(5,000万円相当)
  ・自宅    (5,000万円相当)
  ・収益不動産 (8,000万円相当)
  ・預貯金   (4,000万円相当)
      
  ※相続税のことは考慮せず

太郎は常々、会社を手伝ってくれている長男の浩一にあとを継がせたいと思っていました。

しかし、不幸は予測不能なもので、その想いを家族に告げることも、そのための対策(自社株の譲渡など)を講ずることもないまま、突然の病で亡くなってしまいました。

「法定相続」とリスク

遺族となった花子・浩一・浩二は、太郎の全ての財産を、 法定相続分通り平等に分けました。

<自社株式の分配>

花子 ---- 50株(1/2)
浩一 ---- 25株(1/4)
浩二 ---- 25株(1/4)

会社は、今まで手伝っていたということで、浩一が引き継ぎ社長になりました。

さて、ここまでは特に問題がないように見えますが、例えばここに長男の嫁と姑の確執が絡むとどうなるでしょうか?

【ケースA】花子……逆襲!?

浩一の嫁である桃子は姑である花子を厭い、何かと理由をつけては孫の浩太を花子に会わせないようにしていました。 
花子には、息子の浩一も桃子の味方をしているように感じられ、不満は日ごとに募る一方でした。
そこで花子は、次男の浩二を味方につけて浩一を社長の座から引きずり下ろそうと目論みます。
当事者である浩一が解任に反対しても
取締役会設置会社であれば、解任賛成2票:反対1票、
株主総会決議ならば、賛成75票:反対25票で、
浩一の解任決議が成立します。

さすがにこれでは会社が崩壊してしまうので、怒り心頭の花子でも、ここまで極端な行動は取れません。

しかし、次のような事態は十分考えられます。

【ケースB】浩一の経営は実現不可能!?

会社を継いだ浩一は、これからはIT化・国際化の時代だと考え、事業内容の変更を決意します。
そこで定款変更のため株主総会を開催しました。弟の浩二は浩一の想いに賛成してくれましたが、先代である太郎のやり方を続けてほしい花子がこれに反対。
結局、変更の要件を満たさず、浩一の提案は否決されてしまいます。

いかがでしょうか?

上記は極端な例ですが、太郎の想いを知らずに法定相続を選んだばかりに、浩一は少数株主になり、今後ずっと筆頭株主となった花子にお伺いを立てながら会社を経営せざるをえない状況になってしまったのです。

このように、法定相続にはリスクが伴うことも多いのです。

「遺産分割」

法定相続のリスクを回避する対策として遺産分割があります。うまくまとまればこれがベストです。

会社を継続させるという意思のもと、浩一が自社株を100%相続してくれれば何の問題もありません。

太郎の残した財産は総額2億2,000万円、浩一の法定相続分はその4分の1の5,500万円です。浩一に自社株を全て相続させると、残りの法定相続分は500万円になります。

浩一がこれで納得すればいいのですが、例えば「株は少なくても良いから、他の物が欲しい」となった場合、株が分散してしまう恐れがあり、分散の割合が大きいと、前述の【ケースA】のようなことが生じる可能性が出てくるわけです。

ゆえに、遺産分割も「まとまればベスト」な対策に過ぎず、我々経営者は、まとまらない場合も想定した上で対策を考えておかねばなりません。

そこで、最近注目されているのが「遺言書」です。

法定相続のリスク回避のため「遺言書」を書こう

上記いずれのケースも、想いを告げすに亡くなってしまった太郎の意思は当然反映されていません。

太郎にとってみれば、人生をかけて築き上げてきた会社の経営に、自分の意思を遺すことができないばかりか、遺族である妻や子供たちが自分の遺産をめぐり、あわや骨肉の争い……となってしまうことは、決して望んではいないはずです。

そうなることを回避するためにも生前に自らの想いを「遺言書」として遺しておくべきなのです。

後継者として、浩一に継いでもらいたいと考えていることや、
妻の花子には生活が保障されるものをしっかり遺したい…など、
「遺志」としてきちんと示しておくことで、会社経営のスムーズな承継も、遺族の紛争回避も可能になるのです。

「終活」という言葉は随分社会的に認知されてきましたが、それでもまだ「遺言書」を遺すことに抵抗のある方は多いようです。

しかし「遺言書」は、いわゆる今際の際に残す“遺書”とは異なるものです。
一見同じように思える二つの言葉ですが、法律的な意味は全く違います。
経営者ならば、ある意味「たしなみ」として遺しておきたいものです。

NBC司法書士事務所ではもちろん遺言書作成のサポートも行っております。ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談下さい。

 ◆NBC司法書士事務所◆
http://www.shiho-yoshida.com/

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この記事の著者

NBC司法書士事務所

西東京市で相続と会社設立で実績のある司法書士です。相続と会社設立以外でも、ワンルームマンションを使った資産運用の提案、遺言・葬儀生前予約信託、保険を活用した相続トラブルの予防など、お金と法律に関することなら、何でも対応可能です。